いただきますの向こう側

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三重テレビで5月30日(木)に放送された、ドキュメンタリー番組「じいちゃんの牛~松阪牛と共に歩む~」を見ました。

「松阪肉牛共進会」に賭ける牛飼いの思い、病を抱えるじいちゃんと障害をもつ孫との間で、言葉だけではなく、伝えられるさまざまな技と心、学校で松阪牛の肥育技術を学びながら、祖父の牛舎で修行する孫の見つめる未来。そういった人間ドラマを織り込みつつも、

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決してウェットなつくりではなく、人間ドラマだけでもなく、肥育農家が抱える、後継者とグローバル化という大きな二つの問題と、普遍的な命をいただくというテーマ。それらが丁寧に描かれていました。

松阪牛の定義、すごさ、育てる難しさ、共進会の予選からの1ヶ月で牛は変えられる、それが牛飼いとしての「楽しみ」という、職人としてたずさわる魅力、面白味、そんな手塩にかけて育てられた牛は、もちろん食べられるために育てられたわけであり、画面に映るかわいらしい牛の瞳とその運命。

共進会を勝ち進んでいくドキドキ感。そして最後、じいちゃんと孫が育てた牛「けいこ」が、優秀賞一席に選ばれた瞬間は、見ているこちらも、思わず涙ぐんでしまいました。

感情移入しつつも、心のどこかで、まさかね…と思っていた光景。わずかの時間でそこまで当事者意識をもって見られたのは、その「けいこ」の背景にあったものが、ストレートに表現されていたからでしょう。

すぐにセリにかけられ、ついた金額はなんと2,200万円。ところが、ここでめでたしめでたしではなく、実は孫の心は揺れ動いていたという…。既に就職の内定をもらっていて、しかしその一方で、優秀賞一席をとったことで、じいちゃんの牛舎を継ぐか、就職するか揺れる心。

そこに降ってくる、迎えるTPP時代のなかでの肥育農家の現実。そして迎えた、いざ出荷…。送り出す時の牛飼いの牛への言葉。最後は、切り分けられた肉質の確認。それを嬉しそうに買い求める人々。肉となって帰ってきた「けいこ」をおいしくいただくじいちゃんと孫。

春、結局孫は跡継ぎという道を選ばず、就職の道を選びます。「育てた命に感謝をこめていただく文化」ナレーションの山口アナのこの言葉、すごく心に響きました。

今、日本の農業は大きな転換点を迎えています。今回は、トップの松阪牛というひとつのドラマでしたけれども、実はどんな作物にも、その後ろには生産者のさまざまな思い、努力、苦労、そしてドラマがあって、食事をするということは、その生産者の情熱、情熱を受けて育った命をいただくということ。

毎回食事の前に言う「いただきます」には、本来その両方に感謝し、思いを馳せる意味があったはずなのに、大量生産、大量消費の時代のなかで、食べる側、育てる側の顔がいつしか見えなくなり、箸でつかんだその食べ物が、どこで生まれ、どこで育てられ、どこを通って、この食卓にやってきたのか…せいぜい気にするのは生産地。

これから日本は、生産者と消費者、お互いの顔が、今以上に見えなくなる時代を迎えることになるかもしれません。

そのなかで、食育のひとつとして、この番組は大きな意義をもつのではないでしょうか。食べるもの一つ一つに、命があり、生産者のすべての結晶が、食卓にのぼっていると、

毎食必ず、それを実感しながら、なるべく地元の、生産者の顔が見える食材をいただきたいと、そんなことを思わせてくれる番組でした。

共進会にやっぱり、ジモンさんいたね。

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