三重テレビでCBCテレビ製作のナイター中継が放送される理由

140701

ナゴヤドームでの三重テレビのカメラ(資料写真)

中日グループの結束力

「三重テレビナイター」は、地上波での野球中継でありながら、ナゴヤドームの試合に関しては、プレイボールからゲームセットまで完全中継するという野球ファンには嬉しい編成で知られています。

この三重テレビナイター「制作著作:三重テレビ」と表記されていますが、ところが、実際には、制作協力という形で東海テレビが担当しています。

[広告]

<三重テレビナイターが成立した理由>

1969(S44)年12月1日に開局した三重テレビがナイター中継を開始したのは、翌シーズンから。1970(S45)年4月14日の中日×阪神戦を中日球場から完全生中継をしたのが最初。

当時は阪神戦を神戸・サンテレビに、大洋戦を横浜・TVKテレビ(現・tvk)にもネットし、また、逆にビジターゲームはそれらの局からネット受けすることで、「プロ野球中継なら三重テレビ」というセールスポイントを開局直後から得ることに成功し、愛知県でも「三重専用アンテナ・ブースター」が爆発的に普及。

その年の10月22日には、巨人が優勝を決めた「中日×巨人戦」を中日球場から中継し、その地位を確固たるものにできたのです。

しかしなぜ、新参の独立U局で、しかも名古屋ではなく三重のテレビ局にそんなことが可能だったのでしょうか。

三重テレビが開局するまで、中日ドラゴンズのホームゲーム中継は、CBCテレビ、東海テレビ、そしてNHKが独占していました。NHKに関しては別として、民放での中継は、CBCテレビと東海テレビのみが独占して中継していたということになります。この2つのテレビ局だけが中継できた、その理由とは。そう、この2つのテレビ局は「中日新聞グループ」。

中日ドラゴンズのホームゲームは、中日新聞グループのテレビ局でしか中継されないのです。この放送形態は、今も続いています。

この頃既に、名古屋放送(現・メ~テレ)、中京テレビはあったのですが、その2局に中日ドラゴンズのホームゲームの中継権が与えられることはありませんでした。ところが、三重テレビにはそれができたのです。なぜなら、そのとおり。三重テレビは中日新聞グループだからです。

ただその本音をぶちまけ、いきなり三重テレビに権利を与えては、名古屋放送と中京テレビに対してあまりにも露骨で、中日新聞にとって敵にまわすことになってしまいます。読売朝日連合というヨソモノ資本の前者は無視していいとしても、名古屋財界を資本とする後者は敵にまわせません。

ですから、東海テレビの中継権を、三重テレビに割譲するという形にしたのです。もともとは東海テレビ与えられた権利自体を三重テレビに譲渡する。実際に製作するのは東海テレビだけれども、放送と著作権は三重テレビに譲渡する形にしたのです。

著作権までも三重テレビに与えたことで、サンテレビやTVKテレビにも番組販売が可能になったというわけです。

ただ、実際に製作しているのは東海テレビなので、実況、レポーター、技術スタッフは東海テレビの人が担当します。

 

<CBCだってやれないときもある>

東海テレビにしてもCBCテレビにしても、中日ドラゴンズ戦中継は、東京からネットしたり購入したりしている通常の番組をお休みして、ナイター中継に差し替えます。

購入番組の時間でしたら、もともとスポンサーが地元企業なので、通常番組よりも視聴率が見込める、ナイター中継に差し替えることは容易です。

しかし、ネット番組の場合は、東京のキー局が一括してセールスを行い、ネット番組に対してついているスポンサーに対して、ナイター中継に差し替える説得をする必要があり、広告代理店が認めた場合「スポンサーのご厚意により」通常番組を後日放送することとして、ナイター中継を行うわけです。

ですから、その通常番組を週末の昼に移動させられることができるものかどうか、これがひとつの鍵になってきます。

大抵は、差し替えが可能なわけですが、東京からの番組がスポーツ中継だったり、長時間の特番だったりすると、差し替えができないという事態になります。その場合、東海テレビは自社での中継をせず、権利ごと三重テレビに振替する、ということができるわけです。

ところが、CBCテレビにだってそういう事情のときがあります。

かつて90年代初頭には、そういった中継を、CBCテレビが岐阜放送テレビに振替えたことがありました。「ドラゴンズスペシャルナイター」です。こちらは、CBCテレビの実況やレポーター、技術スタッフによって製作され、岐阜放送テレビが放送するという形で、三重テレビナイターと似たようなスタイルだったのですが、一つだけ違ったことがありました。

それは、権利の譲渡ではなかったということ。

制作著作に関しては岐阜放送に譲渡されず、他局へのネットは不可。あくまでも、CBCテレビが製作したナイター中継を番組として岐阜放送が購入し、岐阜放送自身が流すだけというものでした。

ところが。

岐阜放送は、中日新聞グループではありません。それどころか、岐阜県地区では中日新聞とライバル関係にある、岐阜新聞の関連会社。いや、関連会社というか、実際には採用・人事も一体の、岐阜新聞の放送部門のようなもの。

この中継はわずか数年で終了となります。当時、CBCと岐阜放送は同じようなタレントを起用することも多く、現場レベルではつながりがあり、そこから融通していたことに対して、何か大きな力が動いたことが容易に想像できます。

 

<テレビ愛知も加わって>

80年代、名古屋に新しいテレビ局、テレビ愛知が開局するのですが、こちらは日経と中日新聞の事実上合弁のテレビ局。影響力は低いものの、中日新聞のグループ会社と言ってもいいでしょう。ただ、やはり名古屋テレビと中京テレビの手前、「中日グループだからはいホームゲームの中継権どうぞ」とはできません。

そのため、テレビ愛知は当初、他球団の試合の名古屋での中継権を獲得する形で、ビジターゲームの中継を開始。広島や神宮、甲子園に乗り込みます。この手法は当時珍しく、甲子園球場からのテレビ愛知の中継は、大阪・神戸以外のテレビ局としては初めてのこととなりました。2000年代からは、その「自前でビジターゲームを粘り強く中継した」という実績を評価する形でテレビ愛知にもホームゲームの中継権が与えられるようになります。

これにより、以前は、火曜、金曜、土曜は東海テレビもしくは三重テレビ、水曜、木曜、日曜はCBCテレビと、ほぼ曜日で決まっていた中継担当が崩れ、そのときそのときで中継できるテレビ局が中継するという割り振りになります。

テレビ愛知は特に、火曜と土曜は東京の番組を放送しなくてもいいローカル編成となっているので、火曜を中心に中継を担当するようになります。

ただ、水曜の中継もテレビ愛知が担当したことがあり、水曜を中日ドラゴンズ中継とし、その水曜の番組を、3日後の土曜の同時刻にCMそのままで放送するという対応をしていました。

ちなみに。名古屋テレビもその「実績」として「ドラゴンズ倶楽部」という番組を長年制作し、それは中継権を獲得するための球団、そして中日への「誠意」だったという説がありますが、実際のところはわかりません。結局、名古屋テレビに中継権が与えられることはなく、ドラゴンズ倶楽部は終了しました。さらに、名古屋テレビはビジターゲームを録画で深夜にダイジェスト放送するという手法でドラゴンズファンへのアプローチを行っていたのですが、テレビ愛知のビジター中継活発化によって、それも奪い取られてしまいます。

このような経緯を経て現在は、シーズンの最初にCBCテレビ、テレビ愛知、東海テレビの3社で放送予定を割り振り、そのうち東海テレビの中継のいくつかを、三重テレビに権利譲渡するという形で、東海地区に地上波でできるだけたくさんの中日ドラゴンズ戦中継ができるように、しかしそれは中日グループのテレビ局によってだけで、工夫して編成されているわけです。

 

<でもやっぱりCBCだってやれないときもある>

2000年代から、曜日だけでなく、このようにシーズンはじめに決められるようになった放送予定。ところが、スポンサーやキー局の編成の都合によって、急遽放送できなくなってしまうことがあります。

テレビ愛知はもともと、東京の番組を放送しなくていい曜日に中継を設定しているため、
そういうことがほとんどありません。

東海テレビはその場合、三重テレビに振り替えます。

そして、CBCテレビにそういう場合がやってくると…、岐阜放送への振替はできなくなりましたから…。

そうです。その場合も、三重テレビでの放送となったのです。
CBCテレビの製作で、三重テレビで放送されるのです。

この場合は、前例のCBCテレビから岐阜放送テレビへの供給と同様に、権利の譲渡ではなく、製作や著作権に関するクレジットは表記されません。CBCテレビが製作したナイター中継を三重テレビが番組として購入する形で流しているということでしょう。実況やレポーターや技術スタッフはすべてCBC、ところが、解説はちゃんといつもの東海ラジオ/テレビ・三重テレビ専属の藤波さんとなることもあり、その場合は異色の組み合わせとなります。

7月1日、CBCテレビ製作の三重テレビナイターが放送されました。

実況は津市出身の久野誠アナウンサー。三重テレビへの登場は初めてとなります。

これまでにも、CBCテレビ製作の三重テレビナイターは何度か放送されており、なかでも、2008(H20)年9月28日の中日×巨人は異色で、19時から20時55分のジャパネットたかたテレビショッピングを挟む形で中継され、20時55分の時点で試合が終了してしまっていたため、そこから55分間は録画映像を見ながらの実況という、シュールな放送となっていました。

この日、ジャパネットたかたの通販では、「三重テレビをご覧のみなさまからたくっさんのご注文をいただいています!」と社長が興奮して話しており、中日×巨人を18時台に見ていた視聴者が、ジャパネットに大量に流れ込んだものと推測できます。

これからも、中日新聞グループはその力を結集して、東海テレビ、CBCテレビ、テレビ愛知、三重テレビ、そしてNHK名古屋が、一試合でも多く地上波で野球中継を!と調整することで、この地方では地上波で中日ドラゴンズ中継を見られる、これまでもこれからも、その環境を維持していくことでしょう。

よく、野球中継はスカパーで見ればいい、という声がありますが、地上波の野球中継は目的が違います。スカパーは「既に野球ファン」の人に向けた放送であり、地上波は「新規の野球ファン」を獲得するための放送です。ですから、中日新聞グループとしては1試合でも多く地上波で流したいわけです。

そもそも、地域のコンテンツを発信するのが地上波テレビの役割ですからね。地元球団の野球中継は、その役割を果たす一つの形ということになります。東京の番組を垂れ流すだけなら、全国カバーの衛星放送でいいわけですから。

誰も書けなかった 読売巨人軍の黒タブー (別冊宝島 2165)

コメントはこちらから

Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました