ワイドFMの開始にともなうAMラジオ局の廃止第1号発表・他局の追随が気になる

140719

北日本放送(KNB)

AMラジオの番組がFMでも聞けるワイドFM

 2014(H26)年12月1日にスタートした「ワイドFM(FM補完中継局)」。これは、AMラジオ局が同一の放送内容をFMの電波でも発射することで、都市雑音などによる聞きづらさの改善や、災害時のAM電波送信設備の脆弱性を解決するといった目的で始まったものです。

 基本的には、AMラジオがFMラジオ「でも」聞けるようになるという制度で、ワイドFMを始めることによって「AMラジオ放送が終了するものではない」ことになっています。

 そんななか、その、日本で初となるワイドFMを2014(H26)年12月1日に開始した富山の北日本放送(KNB)が、AMラジオ局を1つ廃止すると発表しました。そこには、KNBの苦難の歴史と言ってもいいほどの特殊な事情があるのですが…。

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ラジオをクリアに聴いてほしいだけなのに…

 富山県を放送エリアとするKNBは、1952(S27)年7月1日にラジオ局として開局。当初は周波数620kHz・出力0.5kWだったものが、翌年740kHzに変更。出力は段階的に増力され5kWに。そして、国際的なチャンネルプラン修正にともない、1978(S53)年に現在の738kHzになると同時に指向性が撤廃されています。

 KNBのラジオの歴史は、混信対策の歴史と言っても過言ではありません。

 富山県は日本海側に位置していることもあり、同じ738kHzに韓国・中国の大出力放送局が存在するために、夜間になると激しい混信で聞けないという状況が続き、その対策を次々と打ってきました。

「日本初」のKNB

 KNBは、あらゆることで「日本初」の称号を持つ、チャレンジ精神あふれる放送局として知られています。

・民放地方局初のカラーテレビ放送開始
・日本初のテレビ副音声によるラジオ放送実施
・日本初の字幕放送を行う文字多重放送開始
・日本初の民放AMラジオ局による混信対策FM中継局設置
・民放地方局初の地上デジタル放送開始
・民放地方局初のハイビジョンCMを制作・放送
・日本初のワイドFM(FM補完中継局)開始

 チャレンジ精神がある一方で、ラジオに関する「日本初」は、混信との戦いの歴史であったと言えます。

KNBの混信との戦い

 「日本初のテレビ副音声によるラジオ放送」は、1977(S52)年に開始。テレビの副音声でラジオの放送を流すという試みは画期的で、とてもクリアな音声で聴くことができるようになったものの、次第にテレビの方で番組のステレオ化、CMのステレオ化が相次ぎ、テレビの番組がステレオになる間はラジオ番組が途切れてしまうことで実用性に乏しくなってしまいます。

 続いて、同期放送による中継局の設置。KNBのラジオは、開局からずっと富山本局のみの設置となっていたのですが、平成のはじまりとともに高岡中継局(1kW・現・高岡矢田中継局)を設置。同期放送によるパワーアップを狙ったのですが、それほど大きな効果は得られなかったのか、すぐに次の手を打ちます。

 1991(H3)年9月27日、外国電波混信対策という特殊な免許で、「日本初の民放AMラジオ局による混信対策FM中継局設置」が行われます。これはワイドFMとは制度が異なり、特に外国語電波による混信に悩まされているAMラジオ局に、FM波での中継局設置を認めるもので、周波数はFM 80.1MHz(50W)、一般のFM放送局と同じ周波数帯での放送です。

 現在では沖縄などでも設置されていますが、AMラジオ局によるFM中継局の設置は、このKNBの新川FM中継局が初めてで、注目されました。さらに、2012(H24)年にはインターネットIPサイマルラジオ「radiko」を開始、そして同じく、外国混信対策として砺波FM中継局もFM 80.1MHz(10W)にてこの年に開始されます。

 ただ「ラジオをクリアに聴いて欲しい」だけなのに、KNBはこのように、数々の施策を行う必要があったのです。そして、2014(H26)年12月の「日本初のワイドFM開始」です。

戦いは終わった

 このワイドFMの開始により、KNBはFM 90.2MHz(1kW)で1日24時間、富山県内どこにいても、クリアに聞くことができる放送局に、ようやくなったのです。KNBの混信との戦いがここに終結したのです。

 そしてこのたび発表されたのが、平成のはじめに設置された、本局と同期放送をすることでパワーアップを図った「高岡矢田中継局(738kHz・1kW)」の廃止です。

 同期放送というのは、同じ周波数で複数の中継局から電波を出すことで、移動しながらでも同じ周波数でラジオを聞き続けられ、なおかつ、その電波を強力にする目的で行われるものです。しかし一方で、精密同期を行っていたとしても、同じ周波数で複数個所から電波を出すということは、同じ放送局どうしでの混信が発生してしまい、合間には聞きづらいフェージング地帯を生んでしまうという副作用もあったのです。

 混信対策FM中継局と、ワイドFMによって全県でFM電波で聞けるようになったKNB。富山本局と高岡矢田中継局は近い距離にあり、逆に、混信のない昼間におけるAMのクリアなエリアを広げるためには、同期放送を廃止するという選択肢は、ありだと思いますし、そのための高岡矢田中継局の廃止なのでしょう。

 FMラジオ局に比べると、AMラジオ局は設備維持面でも消費電力面でも、コストがとてもかかる構造になっており、ワイドFMを開始したAMラジオ局のなかには「もうAMでの放送をやめたい」という声があるのも事実です。

 実際には、そういう目的での廃止ではないにもかかわらず、一見するとKNBのこの動きは、「ワイドFMの開始によるコストカットのためのAMラジオ廃止」に見えてしまい、他局が追随するきっかけになってしまうのではないかという声があります。

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コメント

  1. からや より:

    そういえば、高山で北日本放送が聞こえなくなり逆に沖縄の琉球放送が聞こえてきたこともありました。国内でもこういった周波数のバッティングがあるんですよね。
    その琉球放送も宮古島にラジオ沖縄(783時代は単独だったがこれに加えソビエトの放送局も混信していた、864になったので福井放送などとバッティングしている。はたしてよかったのか)とともにFM中継局を開設すると同時に中波の宮古島中継局を廃止しています。
    本島中南部でも北日本放送同様中国・朝鮮波の混信が見られることから、2局ともFM補完化は避けられないようですが(海抜が高いため防災目的はあまりない)、名護中継局がかなり広範囲に飛んでいることから、那覇補完局は出力減少・指向性(久米島方面を強くするものとみられる)がかけられるとみています。

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