岐阜新聞の新社長が就任4日で辞任・名古屋支配を拒む独特な岐阜のメディア事情とは

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12日(木)の夜、朝日新聞デジタルの記事として、ヤフーのトピックスにこんな記事が掲載されました。

岐阜新聞社長、就任4日で突然辞任 地元銀行の前頭取

記事によりますと、十六銀行の前頭取が今週の月曜、岐阜新聞と岐阜放送の社長に就任、しかしわずか4日後の木曜になって、「一身上の都合」を理由に、辞任を申し出たというのです。

朝日新聞と岐阜新聞は親密関係にあり、かつては岐阜新聞の関連会社である岐阜放送の年末カラオケ特番に、朝日新聞の社主が出演していた時期もあるほどの親密ぶりでしたが、朝日新聞出身の社長が退任したあたりから、そうでもないという噂もちらほら耳にします。

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・朝日新聞
新聞社の社長に銀行の元頭取が就任するのは異例
県経済界と読者「中立的な報道ができるのか」などと疑問の声

翌朝になって他紙も報じました。岐阜県で最大のシェアを誇り、岐阜新聞とライバル関係にある新聞社は…

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・中日新聞
「在任4日 岐阜新聞社長辞任」(本紙紙面のみ)
社長職は当面空席
県内最大手で企業や顧客情報を持つ銀行の前頭取が就いたことに県経済界から強い懸念と反発

一方の毎日新聞は、

・毎日新聞
岐阜新聞:9日付就任の新社長 4日で「一身上の…」辞任
辞任の申し入れがあったのは午後3時前、辞表が提出され、5時半に緊急会議
「新聞社内に反発が強かった。社内の批判が外部を巻き込んだのでは」(県幹部)

さらに、岐阜放送の主要取引先であるテレビ東京の事実上親会社にあたる日経新聞は。

・日本経済新聞
岐阜新聞社長、就任4日で辞任 銀行から転身に批判
辞表を提出した先は会長の杉山幹夫氏、商工会議所会員からは兼任する商工会議所会頭にふさわしくないの声も

そもそも、岐阜新聞とはどのような会社・メディアなのでしょうか。岐阜新聞は関連会社に岐阜放送というラジオ・テレビの兼営局をもち、かつては、岐阜県をエリアする新聞・ラジオ・テレビの全てを支配する、岐阜県最大の媒体力を持つメディアグループとして、その確固たる地位を築いていた一方で、

県外には進出しておらず、名古屋ではその存在すらスルーされることの多いメディアでしたが、岐阜に進出している名古屋の中日新聞にとっては、とても邪魔な存在としてあり続け、中日新聞と岐阜新聞は犬猿の仲としても知られており、その仲違いを最も象徴するものが、岐阜市の花火大会となっています。

岐阜市では、この地方で最大規模の花火大会が毎年開催されているのですが、中日新聞と岐阜新聞が、それぞれ別の花火大会を行うため、この地方で最大規模の花火大会が2週連続で開催されるという状態が50年以上続いているのです。まさにこれは「岐阜は岐阜」「岐阜は名古屋の植民地」の意地のぶつかりあう花火、ということになります。

一方、金融分野では、東海銀行が合併によって名古屋の地盤銀行ではなくなってしまったことから、この地方で最大の資金量を誇る銀行は岐阜の「十六銀行」になりました。十六は「愛知地元化戦略」を進めており、逆に、岐阜から名古屋へと進出を果たし、まさに、中日新聞の逆の構図となっています。

メディアは名古屋が岐阜を脅かしつつも抵抗し続ける一方で、金融は岐阜が名古屋を脅かし、侵攻が成功しつつあるのです。そんな、イケイケの十六銀行から、前頭取が、岐阜新聞そして岐阜放送の社長として、やってきた、というわけです。

これはあくまでも一般論ですが、通常、銀行から社長が送り込まれてくるということは、救済、建て直し、というイメージがあります。かつて私が勤めていた金融機関でも、取引先に出向していた職員は、まさにそれでした。ただ、今回のことがそうなのかはわかりません。

岐阜新聞・岐阜放送はここ最近どうなのか?岐阜県唯一のメディアと言うけれど、

岐阜県で最大のシェアを誇る新聞は中日新聞、テレビも、独立局の岐阜放送よりも、名古屋の広域テレビ局の方が、圧倒的に視聴率が高いわけで、(実際には岐阜放送は視聴率調査対象ではないので数字は出ませんが)そもそも、岐阜県民は、岐阜県独自のメディアを求めているのか?に行き着きます。先述の毎日新聞の記事によりますと、

岐阜新聞社の2012年9月期の売上は約63億円、朝刊発行部数は10月時点で朝刊17万7000部となっています。

これに対し、中日新聞の発表によりますと、岐阜県内での中日新聞の朝刊発行部数は、40万部。県内閲読者率は、中日新聞57.4%、岐阜新聞19.4%、朝日新聞7.3%、日経新聞5.6%となっており、岐阜県民が岐阜新聞を最もよく読んでいるとは言いがたい状況です。

しかし、地域に偏りがあり、中濃や東濃など、名古屋のベッドタウン化が進んでいるところでは中日新聞のシェアが高い一方で、岐阜市内などでは、岐阜新聞のシェアも高く、ほぼ同部数で拮抗している地域もあるといいます。

ところが、地デジ化で新社屋に移転し、過大な設備投資を強いられた、岐阜新聞の関連会社である岐阜放送の業績は芳しくなく、2012年9月期の売上は、テレビとラジオを合わせて27億円、

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隣県で、同規模で同じような番組編成を行っている三重テレビがテレビのみで2013年3月期に34億円の売上を計上していることに比べると、明らかに見劣りします。ちなみに、三重テレビは中日新聞系列です。

さらに、岐阜放送のテレビの1日の番組のうち、51.0%が通販番組であることが問題として中日新聞に報じられたり、かつて、岐阜放送のラジオニュースは、全て岐阜新聞社提供であったものが、一部の時間帯を除いて引き上げられるなど、岐阜放送の苦戦ぶりは、一般視聴者にも伝わってくるところまで来ています。

一方、その岐阜新聞と中日新聞が合弁で設立した、岐阜エフエム放送は、債務超過から脱することが出来ず、業界紙には、日本で最底辺の給料の民放局として平均給与が紹介されたりと、岐阜のメディアを取り巻く環境は、けっして明るいとは言えません。

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岐阜新聞・岐阜放送は、40年以上に渡ってトップに君臨し続けた杉山会長の求心力のもと、力な営業力で県内の広告出稿を集めて成り立ってきたわけですが、会長も86歳となった今、岐阜のメディアの現状、この、岐阜新聞と岐阜放送の社長のポストが、
どんな役割を担うのかは、もうおわかりだと思います。

かつては、岐阜の財界のなかで、大日本土木と岐阜銀行をどうするのかが長いこと懸案事項だったわけですが、次に出てきたのが、実は、岐阜新聞、岐阜放送、岐阜エフエム放送で、今回の辞任劇は、それが露呈した…ものなのではないでしょうか。そして、この混乱の責任をとって、杉山会長は、岐阜新聞の会長を退任し、取締役に降格になるという報道がありました。

果たして本当に、報道の中立性、社内の反発、経済界の反発による辞任なのか…。端的に言えば、ワンマン会長が連れてきた元銀行の社長を社員たちが追い出した、ついでに会長も引き摺り下ろしたといったところでしょう。その背後に、大垣の銀行もいる?名古屋の新聞もいる?さあどうでしょう。杉山会長の会長退任で、40年以上に渡って止まっていた歯車は、いよいよ動きはじめた…のかもしれません。

岐阜新聞・岐阜放送が言うところのその「名古屋の新聞」が、この岐阜のメディアを取り巻く現状を、いつまでも静観してるとは思えない…と思うのは私だけでしょうか。かつてはライバル感を互いに感じましたけど、最近の中日新聞からは「相手にしていない感」の方を強く感じますけどね。そう感じさせつつも、マラソン大会を事実上、中日と岐阜新聞の共催に持込むなど、懐柔にかかっている気配もあるんですよね。

まずその指針となりそうなのは、やはり花火大会でしょうね。岐阜市と同様に、中日と岐阜新聞がそれぞれ別々に花火大会を開催してきた街は、岐阜県内にいくつもあったのですが、関市などで「非効率だ」という声があがって共催でシーズンに1回の開催になっているのですよね。

50年以上に渡って、岐阜市で毎年開催されている、この地方最大規模の2つの長良川花火大会が、中日と岐阜新聞の共催となって1つの大会になる日が来たら、それは、そういう時代が到来した、つまり、岐阜はメディアも名古屋の植民地になった…と断言できる時だと思います。岐阜のメディアの火は、果たしていつまで名古屋の放水に耐えられるでしょうか。

岐阜に最初に出来た「ラジオ東海」という名古屋資本の息のかかった放送局を、東海ラジオという形で名古屋に追い出し、純粋な岐阜資本による独自の放送局の立ちあげに関わり…その火を守り続けた人物こそ、杉山会長だったわけですが。

ぎふ創世紀

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コメント

  1. RunRun より:

    岐阜放送と三重テレビの差は、
    本当にどこから来るのかという思いがあります。
    三重テレビでは、テレビ東京系番組の放送は、
    そこそこあるのですが、
    テレビ愛知と放送エリアが被る区域が多いためもあるのでしょうか、
    テレビ東京系番組の同時ネットが、現在ほとんど無いに等しい状況で、
    それを、自社制作番組の奮闘や、
    マルチ編成の実施などでカバーして、
    テレビ単営で35億円近い営業収入を上げているのですね。
    一方の岐阜放送は、
    テレビもラジオも、旧来から名古屋市内では、
    良好に受信できないらしく、
    そのためか、名古屋や愛知県内向けの営業活動に力が入らないようで、
    名古屋市周辺の視聴者になじみが薄くなるのも、
    当然なのではという見方も、広がっているのではないかと思います。
    テレビだけ(ラジオを除く)の営業収入が、20億円台の放送局は、
    岐阜放送テレビ、奈良テレビ、とちぎテレビあたりが該当するようですが、
    びわ湖放送、テレビ和歌山、群馬テレビも、
    そうなのでしょうか?????

  2. トッピー より:

    >RunRunさま コメントありがとうございます

    10年ほど前までは、岐阜よりも三重の方が、
    テレ東と同時ネットが多かったんです。

    ちらっと聞いた話では、番組を購入する際、
    同時ネットよりも遅れネットの方が安く買えるんですよね。

    以前から愛知に電波がダダ漏れだったのに、
    同時ネットばかりだったわけですから、遅れネット化の理由は
    テレビ愛知とのエリア被りではなく、そっちだと思ってます。

    岐阜放送は、条件的に電波を飛ばせなくなる
    「岐阜市内からの電波送信」に自らこだわっていますし、
    名古屋に頼らずに運営していくプライドが、そうさせてるという
    要因もあると思いますよ。

    もちろん、大きく背後に名古屋の新聞の影響はあるのでしょうけど。

  3. RunRun より:

    岐阜放送の売上げ27億円というのは、
    テレビ、ラジオ広告収入やイベント等の雑収入を合わせた総売上高なのでしょうか。
    もしそれが事実なら、
    岐阜放送の放送広告収入は、
    テレビは20億円に乗せるのがやっと、
    ラジオは1~3億円程度になるのでしょうか?

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