40年ぶりにテレビ朝日だけが高校野球の決勝を中継しないのはナゼ?

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テレビ朝日(東京・港区)

決勝だけは地上波2局で全国ネットだった

 今日はいよいよ、全国高校野球選手権大会の決勝が阪神甲子園球場で行われます。関西地区を除いて、決勝以外は地上波テレビで高校野球中継を見るなら「NHK」一択なのですが、この決勝戦だけは、主催である朝日新聞系のテレビ朝日系列24局全国ネットと一部地方局でも放送されてきました。

 決勝戦だけはNHKとテレビ朝日系列の2つで見られるというこの体制、これは1975(S50)年から40年間続いてきたのですが、どうやら、関東だけは昨年をもって終了したようです。今日の新聞朝刊を見ても、テレビ朝日の欄に高校野球中継はありません。

 今日の決勝戦、NHKはもちろん中継しますが、一方のテレビ朝日系列は、テレビ朝日だけを除く23局のネットとなります。関東以外では、北海道から沖縄まで全ての系列局で流れます。(クロスネット局を除く)

 なぜ、テレビ朝日は今年、決勝戦を放送しないのでしょうか。

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高校野球は「ABC」

 夏の甲子園は、BSではBS朝日で放送されていますが、それは別として、地上波テレビだけに限って考えます。

 関西地区以外では「高校野球といえばNHK」というイメージがありますが、関西地区だけは、決勝戦だけでなく全日程において「高校野球といえばABCとNHK」なのです。

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ABC朝日放送(大阪・福島区)

 ABC朝日放送は、関西の2府4県をカバーする放送局で、夏の甲子園に関しては朝から夕方まで、NHKと並行して開会式から連日ずっと中継しています。また、どうしてもスポンサーの関係上、別の番組を放送しなければならない時間帯に関しては、NHKが総合テレビとEテレでリレー中継するように、ABCは独立局※とリレーをする形で放送しています。

※独立局=サンテレビ(兵庫・大阪)、KBS京都(京都)、びわ湖放送(滋賀)、奈良テレビ(奈良)、テレビ和歌山(和歌山)

 ですので、関西の2府4県では全ての日程で、NHKとABCの2つで高校野球が放送されているのです。

 それが、決勝だけテレビ朝日系列全国ネットに格上げになる、という形でした。

CMが画面の3分の1しか流れない

 しかし、NHKとABCの両方が中継するとなりますと、どうしたって「CMのない」NHKが有利になってしまいます。そこで、ABCはスポンサーをつけつつも、甲子園からの中継は途絶えさせない「ワイプCM」という、特殊な中継スタイルをとっています。

 イニング間、30秒間CMが入り、音声はCM音声になるのですが、なんとCMは画面の3分の1だけ。それ以外の3分の2の部分には甲子園の映像が入り続けるのです。

 かつては1994(H6)年まで、30年以上にわたって「住友グループ」がスポンサー枠すべてを買い切っており、ワイプCMはコミカルなアニメーションと音楽とともに、住友グループの各社が紹介されるというものでした。この印象が強く、関西地区では「夏の甲子園といえばワイプCM」という一種の風物詩にもなっています。

 住友グループが降板したあとは、複数社でスポンサードを行う形となっており、近年は4社「NTT docomo(関西支社)」「大阪芸術大学グループ」「京都銀行」「わかさ生活」が買い切る形で、4社のワイプCM(京都銀行は小画面CM)が代わる代わる流されています。


▲こちらは奈良テレビで放送された、大阪芸術大学のワイプCMメイキングです(公式)

全国ネットの決勝も関西のスポンサーだった

 では、決勝の全国ネットはどうなっていたのかといいますと、驚くべきことにそのままの中継が流れていたのです。

 ですから、北海道から沖縄まで、全てのネット局で「NTT docomo(関西支社)」「大阪芸術大学グループ」「京都銀行」「わかさ生活」という関西のワイプCMがそのまま見られたのです。特にドコモは、かつて地域ごとに会社もCMも違っており、年に一度だけ「NTTDoCoMo関西」のCMが全国で流れる機会でもありました。

 これはもちろん、ただ、垂れ流されていたわけではなく、この4社は、決勝戦に限って全国ネット分のスポンサー料を払っていたのでしょう。

 しかしです。

昨年不穏な動きがあった

 昨年、ABCの中継では「NTT docomo(関西支社)」「大阪芸術大学グループ」「京都銀行」「わかさ生活」のCMが流れていたにもかかわらず、決勝戦の全国ネットでは「docomo」だけが流れなかったのです。

 つまりdocomoは、関西ローカル分の中継の広告料は払うけれども、決勝の全国ネットのセールスには応じなかった、ということでしょう。

 決勝だけスポンサードをしないという事例は、以前にも関西電力などでもあったのですが、関西電力は地域企業なので納得ができます。しかし、地方銀行である京都銀行が全国ネットでCMを流しているのに、全国展開のdocomoが流さない…という事例が生まれたことで、「決勝の全国ネットだけはスポンサーを降りる」という実績が、昨年できてしまったということになります。

そもそも決勝戦だけ中継する意義とは

 60年近く前から全日程をABCも中継する関西では、夏の甲子園は「ABCとNHKの両方でやっている」というイメージが定着していますが、関西以外の地域ではそもそも、高校野球はNHKであり、決勝戦だけはテレビ朝日系列でも中継を放送している…という印象すらないというのが、正直なところではないでしょうか。

 この地方でも、ご当地の学校が決勝に進出しても、ほとんどの人はNHKを見るため、並行で中継するテレビ朝日系列局は、さほど視聴率もとれないというのが現状です。

「視聴率のとれる関西のABCの中継では引き続きCMを流したいけど、決勝の全国ネット分だけスポンサーを降りることができるなら…」

 今日、テレビ朝日が40年ぶりに高校野球の決勝を中継しないのは、「BS朝日があるから」でも「NHKでもやってるから」でも「東京の学校が決勝に残ってないから」でもなく、スポンサーが降りてしまったがすべてでしょう。

 BS朝日の並行中継は14年前からやっていますし、NHKなんてずっと前からやってることで、どちらも、今に始まったことではありません。

 民間放送局は1分1秒が商売です。かつてABCのラジオには「東京からスポンサーのついてこない番組は一切流さない」という方針があった時代がありました。今回はその逆で、「大阪からスポンサーがついてこないなら高校野球の決勝は流さない」と、テレビ朝日が判断したのではないでしょうか。

 ワイプCMと、そのあとの提供表示を兼ねた「ねったまくんじゃんけん」こそが、高校野球決勝の醍醐味と、全国でも楽しみにしている人も実は多いとも聞きます。

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ねったまくんグッズ

 ABCのスポンサーが「決勝戦の全国ネットセールスを降りた」のか「関東だけセールスを降りた」のか。テレビ朝日以外のテレビ朝日系列23局では、例年どおり決勝戦が今日、放送されるので、その地域のスポンサーが例年どおりABCと共通のワイプCMなのか、ねったまくんじゃんけんがあるのかどうかが気になるところです。

 ABC制作の中継に、別スポンサーをつけて流しているBS朝日の高校野球中継も、昨年まであった冠スポンサーが撤退していますし、じわじわと、60年近く続くABCの高校野球中継にも影が迫っている気がします。そう考えると、30年以上に渡ってABCの高校野球中継のCM枠を全て買い切り、同じく大阪のMBS発で全国ネット放送された高校ラグビーのメインスポンサーでもあった、住友グループというのは、高校生スポーツの大会に実に莫大な資金を投入していたのですね。

 かつてはTBS系列だったABC朝日放送。ABCがテレビ朝日系列になって今年で40年。この節目の年に、テレビ朝日系列の一つの伝統が消えようとしています。

【追記】名古屋・メ~テレなど、決勝戦を放送した各局では今年、ABCのスポンサーは一切ついておらず、独自のCMを挿入。「ABCのスポンサーが決勝戦の全国ネットセールスを降りた」が真相だったようです。つまり、昨年までは、各局は決勝戦を放送するだけでABCからスポンサーがついてきてネット保証金がもらえたものが、一転して今年からは、決勝戦を放送するにはABCから番組を買わなければならないという、正反対の形になったというわけです。そのため、テレビ朝日は真っ先に番組購入を拒否をしたということでしょう。

 ローカルセールスになった以上、来年以降は放送を離脱する局が増える可能性は…あるでしょうね。

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コメント

  1. 通りがかり より:

    これは由々しき事態です。お上が撤退したことで「あ、ネットを強制される必要がなくなったんだ」ということで、来年から通常の試合同様、出場校の地元局だけの任意ネットになってしまうのではと懸念しています。
    あと、ABCの中継を見て育った関東在住の関西出身者で、準決勝まではBS朝日で見ても、ワイプCMがあるからあえて決勝はテレ朝で見ている、っていう思い入れが強い方もいるんじゃないかと…

  2. 通りがかり より:

    あと、個人的な愚痴ですが、
    夏の高校野球はABCの年中行事みたいな感じで、熱闘甲子園は制作にテレ朝が名を連ねているとはいえ、中継も熱闘も完全にABC中心で放送されているのを見て育ってきた者として、徐々にテレ朝の介入が度を増してきて、熱闘はほぼテレ朝のもの、中継もテレ朝アナが割り込んできたりと、テレ朝色が濃くなってきた状況に不快感を感じていました。で、この決勝だけを切り捨てる仕打ち。正直、やる気がないなら来年からテレ朝は出て行けって、すごく腹立っているんですわ。
    でなくとも、最近のテレ朝HD各局のスポーツ中継の力の入れに違和感を感じているんで。特に子会社になったBS朝日なんかは顕著で、錦織テニスを始めたせいで当日にレギュラー番組がすっ飛ばされたりとタイムテーブルも放送予定もズタズタに。なんか朝日ニュースターの悲劇の二の舞になりそうで、特に好きな番組が多い局だけに、なんだかなぁって気分になっている現状です。

  3. 通りがかり より:

    いやぁ…朝に勢いで書いた駄文が恥ずかしいのなんの…消して頂いて構いません

    自分を含めて多くの人が、「10:0でテレ朝が悪い」と怒り心頭なところ、冷静に分析されてスポンサー事情だと断言した上記事にされるあたり、流石でございます。
    確かに、ローカルセールスになった上に、どうせ地上波はNHKで見るし数字もとれないだろうから、別に平行してやらなくてもよくね?っていうテレ朝の判断自体、別に間違ってはないですよね。
    ただ、事前に決まっていたことでしょうけど、清宮選手が登場して、もし早実が決勝に行ったにもかかわらず…とななっていたら、こんな程度じゃ済まないぐらいの大炎上祭りになっていたかも…(でも、何事もなかったように放送していたかもですね。ただし、内々的には「緊急中継」扱いでしょうけど)

  4. こしけん より:

    大変わかり易い解説に感謝します。

    個人的には、次は全国高校ラグビーの準決勝ハイライトと決勝の中継がどうなるかに注目したいと思います。
    上位進出校の顔触れに変化が乏しく、毎日放送も全国ネット向けの宣伝活動に熱心でない(ように感じられる)中、神戸製鋼グループは準決勝ハイライトと決勝の全国ネットセールスを継続するのでしょうか?(毎日放送、神戸製鋼とも全国高校ラグビーの特別協賛社)
    ちなみに全国ネット向けの宣伝活動については、過去2年ハイライトのキャスターに起用されている小島瑠璃子さんが今春から毎日放送制作の「サタデープラス」に出演されていますので、そこで宣伝するかどうかに懸かっていると思います。
    話がそれてしまってすみません。

  5. とくなが より:

    今年も数試合ABCラジオの高校野球をチェックしましたが、
    CMの多くは番組宣伝で、純粋な広告はごくわずかでした。

    ちなみに、決勝戦・7回までのABCラジオCMですが、

    純粋な高校野球の提供は7社のみ

    エースコック
    NEC
    京都銀行
    日本フルハップ
    大栄環境グループ
    ABCハウジング
    大阪芸術大学グループ

    その他スポットCM 13社

    ミュージックスクランブル用CM2社

    以上でした。

    恐らくWBSやJRTといったネット局に送信する兼ね合いから
    来年すぐに中継がなくなる可能性は低いでしょうが、
    そう遠くない将来、ABCラジオの野球中継が、
    MBSラジオの選抜と同じように、
    準決勝と決勝のみの放送になるのは、
    そう遠くはなさそうです・・・。

  6. 通り抜け より:

    面白かったです。
    今度、全国高等学校サッカー選手権大会が日本テレビ系列プラス独立局とやるようになった歴史もぜひぜひ。

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