写真:テレビ東京
「選挙のテレビ東京」
まさか、そんな注目の浴び方をする時代が来るとは、誰が想像できたでしょうか。一昨年の参院選から、選挙特番に池上彰さんを起用したことで、他局と同レベルの視聴率を獲得するようになったテレビ東京。その背景には、速報にはすごぶる弱いテレビ東京という弱点を、逆手にとった戦略勝ちという側面があるのです。
もともとテレビ東京は、速報対応に弱いことで知られています。突発的な事件・事故、災害が発生した際、他局が一斉に速報を流していても、テレビ東京だけは通常放送。かつてはひっそり行われていましたが、そのことがインターネットで拡散されるようになり、今では多くの人が知ることとなりました。
これには、テレビ東京系列特有の問題があります。我が国の電波行政は、新聞と民放テレビを系列化し、その民放は4系列という考え方で進められてきました。バブル時代にはその計画が実現し、一部をのぞいて大方の地域で4つの民放テレビが見られるように整備されました。
テレビ東京は「科学テレビ・東京12チャンネル」という関東ローカル局として開局。科学技術の振興を目指すという崇高なコンセプトで開局したのですが、そんな内容で稼げるわけも無く、1日わずか4時間しか放送できないほどの瀕死の状態となり、日経が支援することとなります。
日経の支援によって東京12チャンネルは再建の道を歩み、神戸や京都、名古屋のテレビ局と系列の真似事のようなネットワークを組んでいたのですが、「本当のキー局になりたい」という気持ちが生まれます。そこで、名古屋と大阪に割り当てられていた、独立局用の電波を日経の力で獲得。東京、大阪、名古屋を結ぶ「メガTONネットワーク」を形成。予期していなかった第5の系列が誕生するのです。その後、岡山、札幌、福岡にも開局。6局ネットの自称「列島縦貫ネットワーク」「高効率都市型ネットワーク」体制が完成するのです。
しかし、他の4系列が20以上の系列局を有しているのに対し、テレビ東京系列は6局。しかも、テレビ東京の系列局は、キー局のテレビ東京を除いてすべての地域で最後発局。人も金も力もありません。ですから、速報対応をしたくてもできないのです。だからといって、報道そのものが弱いわけではありません。速報対応ができないからこそ、検証報道には力を入れています。
突発的な報道特番は組まないテレビ東京ですが、選挙対応はそうはいきません。選挙はいつ行われるか最初からわかっていることですし、さすがにそこで選挙を無視した編成を組むことはできません。しかし当然のことながら、速報には弱い選挙特番になってしまうのです。
今回の「池上彰の総選挙ライブ」でも、選挙事務所からの中継がほとんどありませんでした。他局ですと「バンザーイ」と「当選者インタビュー」の映像が次々と登場しますが、テレビ東京はせいぜい2、3ヶ所からの映像のみ。できないのです。
速報ができない…。ですから、テレビ東京の選挙特番は、選挙の開票特番でありながら、速報以外のことで時間を埋めることになります。
これまでのテレビ東京の選挙特番では
・選挙の結果を予測した上での経済討論
・政治家による時代劇
・候補者の人生再現ドラマ
なんてことでお茶を濁してきたのです。他局と横並びの選挙特番をあきらめて、L字で速報を流しつつも日曜ビッグスペシャルを通常放送し、選挙特番を午後10時からスタートとしたこともありました。
そこに登場したのが池上彰さんです。前回の参院選で、テレビ東京は初めて選挙特番に池上彰さんを起用。速報ができない代わりの穴埋めとして、池上彰さんによる各政党の支持層の検証、各党首とのやりとりをメインとしたのです。これが当たり、視聴率は9.3%。民放2位、選挙特番としてテレビ東京歴代トップの数字を獲得したのです。
この数字を見て、他局も池上彰さん起用に動くのですが、テレビ東京のオファーが最速だったこともあり、今回も池上彰さんとテレビ東京のタッグとなったのです。しかも、前回は池上彰さんの特番と、WBSのキャスターである小谷真生子さんの特番の2本立てだったのですが、今回は小谷さんの特番を地上波では放送せず、地上波は池上彰さんで4時間半、勝負に出ました。
結果、番組全体としては視聴率8.6%で民放4位だったものの、途中から占拠率に勢いをつけ、午後11時台には民放トップの7.9%を獲得したというのです。
池上さんと各党党首のストレートなやりとりは、私達が普段聞いて欲しいことの連発であり、また、各党がどのような支持層に支えられているのかも詳しく紹介。
それぞれの当選確実者についても、プロフィール紹介が凝っていただけでなく、「○代世襲」「政治塾出身」「○○(支持団体)出身」など、何をきっかけに政治家になったのかを全員表示。まさに、池上彰さんの力と、テレビ東京の力が相乗効果となって成功を収めたといってよいでしょう。
これはテレビ東京だからこそできた選挙特番なのです。けっしてそれは、テレビ東京がタブーに強いとかではなく「選挙特番なのに速報に弱いから他のことで時間を埋めなければならない」という、テレビ東京の弱点があるからこそのものなのです。候補者のプロフィール紹介も、情勢分析が即座にはできないから、事前情報で埋めておこうという思惑もあったものと思われます。
かつては、2~3%程度の視聴率しかとれず、他局からは相手にもされていなかったテレビ東京の選挙特番が、時間帯によっては民放トップをとることができるようになるだなんて、誰が予想できたでしょう。
しかもその原因が、速報体制を整えたからではなく、速報以外の部分で注目を浴びる番組作りに成功したということは、他局にとって脅威であるとともに、まさにこれこそ、テレビ東京が長年蓄積してきた「他局との差別化」の真骨頂といえるでしょう。この「他局との差別化」も、近年は東京ローカルテレビ局のTOKYO MXにお株を奪われつつあったので、面目躍如といったところでしょうか。
池上彰氏起用のテレ東が民放トップ7・9%…選挙特番(スポーツ報知)
テレ東健闘!池上氏効果で選挙視聴率大幅アップ 堂々批判で維新・石原代表激怒も(サンケイビズ)
デーブ氏 テレ東選挙特番は「100点満点」(東京スポーツ)
他とは違うのです。
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