阪神・淡路大震災当日のテレビ東京を振り返る

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正午から放送された「報道特別番組・各地で大きな被害~兵庫県南部地震~」

当時のテレビ東京は「キー局になりたて」だった

「テレ東伝説」と言われるほどに、余程のことがない限り報道特別番組を組まないテレビ東京。そのテレビ東京が、今から20年前の阪神・淡路大震災発生当時にどのように対応したのかを、手元にある当日のビデオテープを検証しながら、まとめてみます。

 まず、阪神・淡路大震災発生当時のテレビ東京の立ち位置を説明します。まだ、当時は「キー局」と呼ばれるのも慣れていない頃であった一方で、ネットワークが完成したという士気があった時期です。

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 テレビ東京は、その13年前の1982(S57)年まで関東ローカル局で、今のTOKYO MXみたいなものでした。そこから、大阪、愛知、岡山、札幌、福岡と系列局を9年かけて開設し、1991(H3)年4月1日の「TXN九州(現・TVQ九州放送)」の開局によって、現在と同じ6局ネット体制を完成。

 他のキー局の二十数局のネットワークに比べれば貧弱なものですが、当時は「列島縦貫ネットワークの完成」「経済力・民力の高い地域を効率よくカバーするネットワーク」をとして売り出し、このTXNネットワーク完成から4年。「テレビ東京もキー局になった」という猛アピールをしていた時期に、阪神・淡路大震災は発生したのです。

今よりもニュースに敏感だった

「テレビ東京はキー局になった」「TXNネットワークの完成」というイメージを一番強く打ち出したのが報道でした。1989(H元)年7月8日には「T-SAT(テレビ東京通信衛星システム)」の運用を開始。衛星を使ったSNG中継車を配備し、系列局は少ないながらも、全国どこからでも生中継をできるシステムを構築。

 1988(S63)年にスタートした現在も続く「ワールドビジネスサテライト」に続き、それまで土日には僅かなスポットニュースしかなかった状況を返上し、1989(H元)年には月曜から日曜まで全ての曜日で夕方に25分のワイドニュース枠「TXNニュースTHIS EVENING」を新設。その翌年、日本初となる1時間のお昼のニュース「TXNニュースワイド11」をスタートするなど、「報道もできるテレビ東京」を目指していたのです。

阪神・淡路大震災当日午前

 1995年1月17日午前5時46分、兵庫県南部地震が発生。テレビ東京は6時15分からの「マーケットLIVE」でその一報を伝えるも、神戸の震度が出ていなかったことから大きな緊迫感はなく、地震とマーケットを対比させるようなユーモアを交えるなど、「近畿で地震があったんだ」という程度の認識だったようです。

 6時30分、小島一慶キャスターの「NEWSもぎたて朝一番」が始まると、現地からの電話レポートが入るようになり、次第にスタジオが緊迫感に包まれていきます。実はこの後、テレビ東京がどういう体制だったのかは数時間不明です。といいますのも、私が見ていた系列局のテレビ愛知では通常通り時代劇の再放送が放送されていたからです。そこから察するに、東京も特番は組めていなかったのでしょう。

 9時40分からの「株式ニュース」で系列局も東京からのネットに復帰。午前10時から特番体制に入ります。久保田麻三留・槇徳子キャスターによる「TXNニュースワイド11」を1時間前倒し、そして正午からは同じキャスターで「報道特別番組・各地で大きな被害~兵庫県南部地震~」が始まります。提供は普段どおり「女性の素肌美を追求するヴァーナルとエヌケーグループ販売」と表示され、他の系列が提供クレジットを自粛するなかで、異質に感じたものです。

 テレビ東京には、関西にテレビ大阪という系列局があるものの、テレビ大阪は他の関西のテレビ局と違って、大阪府のみをカバーとする放送局のため、神戸に取材拠点がなく、特番の始めの頃は大阪の都市部からの中継、大阪のお天気カメラの映像でお茶を濁すなどしていました。他局がヘリの映像を流すなか、無理をして特番を組んでいる感が否めませんでした。11時を過ぎる頃になって次第に現場の映像が入ってくるようになります。

午後から夜にかけて

 正午からの特番は継続され、途中でキャスターは榎田卓央さん(現在は横浜市立の中学校の校長)と、田口恵美子さん(現在は松岡修造さんの奥様)に交代。午後5時からは「TXNニュースTHIS EVENING」として放送。地震の特番は午後5時55分まで続きました。

 ここで、テレビ東京は一息つきます。午後6時からはアニメ「覇王大系リューナイト」、午後6時半からはテレビゲーム情報番組「ゲーム王国」を放送。のちにNHK名古屋放送局が発明する「L字画面」はまだこの世に存在しておらず、通常通りの放送が行われました。

 そして午後7時からは、テレビ大阪が主導の報道特別番組「緊急報道特番 兵庫県南部地震 関西に大きなツメ跡」を千年屋俊幸アナと春藤睦アナで2時間放送。東京からは引き続き榎田・田口両キャスターが情報を入れていました。

 午後9時。通常通り「開運!なんでも鑑定団」を放送。なぜ午後6時台の子ども向け番組と、この鑑定団のみが通常通り放送されたのかはわかりませんが、当時の「報道もできるテレビ東京」を標榜していた状況下でこうなったのは、営業との絡みか、連続しての特番はまだ無理だったのどちらかでしょう。

 午後10時。通常なら「情報!ソースが決め手」という番組が放送される予定で、夕方にはその番宣CMも流れていたのですが休止。午後10時から野中ともよさん、西村晃さんによる「ワールドビジネスサテライト」が1時間前倒しで放送されます。

 この10時台は異例なことがありました。通常はWBSを放送していない三重テレビですが、普段この時間「情報!ソースが決め手」を同時ネットしていた関係から、三重テレビもWBSのこの10時台だけを放送。テレビ東京側がそのために飛び降りポイントをつくり、「このあとの番組」のテロップの位置まで打ち合わせ済みだったと思われるものの、三重側がテロップを出すタイミングを間違い、系列局向けのテロップが系列外の三重テレビで結局見えてしまったというミスもありました。

深夜から翌朝

 その後、深夜は通常番組を放送し終えると、他局は終夜で報道特番を放送するなか、テレビ愛知は名古屋のお天気カメラをバックに「新しい情報が入りしだいニュースをお送りいたします。」という映像を延々とながし、午前5時に特番が始まります。

 午前5時「報道特番 兵庫県南部地震」がスタート。キャスターは前日と同じく榎田・田口両キャスターという過酷な状況が続きました。その後は5時40分「天気予報」、5時45分「マーケットLIVE」、午前6時「NEWSもぎたて朝一番」と続くことになります。

 系列のテレビ愛知では、マーケットLIVEになるまでテレビ東京をそのまま垂れ流しており、東京がCMに入ったタイミングだけはずっとお天気カメラの映像という、通常ではあり得ない対応をとっていました。

まとめてみます

阪神大震災当日のテレビ東京系

6:15マーケットLIVE
6:30NEWSもぎたて朝一番
7:25~9:40まで各局別
9:40株式ニュース
10:00ニュースワイド11(拡大・通常は11時から)
12:00報道特別番組・各地で大きな被害~兵庫県南部地震~
17:00ニュースTHIS EVENING(拡大・通常は17:30から)
18:00覇王大系リューナイト
18:30ゲーム王国(愛知はまんがのくに・ミスター味っ子の再放送)
19:00緊急報道特番 兵庫県南部地震 関西に大きなツメ跡(テレビ大阪発)
21:00開運!なんでも鑑定団
22:00ワールドビジネスサテライト(拡大・通常は23:00から)

その結果どうなったのか

 テレビ東京がようやくキー局となり、報道に力を入れるようになって初めての試練がこの震災だったといえます。ちなみに、この年はこのあと、オウム真理教事件の報道が本格化し、テレビ東京はゴールデンにオウム関連の特番を編成するなど、今のテレビ東京からは信じられない体制を組むのですが、それはこの1995(H7)年限りで終焉を迎えることとなります。

 報道予算を使い切り、6月には年間の報道の赤字が1,600万円、10月末には7,500万円にまで膨れ上がってしまうのです。

 それ以降テレビ東京は、報道に力を入れること自体に変わりないものの、形を変え、他局のようにライブで長時間放送するのではなく、後からじっくり検証する調査報道路線に転向。

 土日のワイドニュースをやめ、日曜夜に「ガイアの夜明け」をスタート(現在は火曜)、大きな災害や事故などが発生しても、すぐに特番で対応するのではなく、しばらくたってから検証する特番を週末の昼に編成するという、今のスタイルができあがるわけです。

 まさにこの1995(H7)年は、テレビ東京のその先の方向性を決定付けた年であり、阪神淡路大震災は、テレビ東京にとっても大きなターニングポイントであったといえます。そう考えると、テレビ東京が、CMを飛ばして33時間もの連続生放送で東日本大震災に対応したのは、異例中の異例といえます。

この記事を書いた人

TOPPY/川合登志和

記事や脚本を書いたり、名古屋のラジオやテレビの構成作家をしたり出演したり、地域のFMラジオで喋ったりディレクターしたりミキサーしたり、講師したり、サイト作ったりしてます。

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