「池上彰の総選挙ライブ」は全国放送だったのに…

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写真:テレビ東京

昨日のブログでは、テレビ東京が16日夜に放送した選挙特番「池上彰の総選挙ライブ」が成功を収めたのには、テレ東ならではの理由があったという話を書きましたが、今回はもうひとつ、テレ東が持つ事情について書いてみたいと思います。

「テレビ東京が見られないから池上さんの見られなかった」

今回、ネット上で「池上彰の総選挙ライブ」が話題になった際に、決まって出てくるのがこの言葉でした。全国に20以上の系列局を置く他の4大系列と違い、テレビ東京系列は6局しかありません。しかし今回、この番組はBSでも放送され、全国どこでも見られるようになっていました。なのになぜ、こう言われてしまったのでしょう。

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札幌、東京、名古屋、大阪、岡山、福岡。この6都市にしかテレビ東京系列は存在せず、カバーしているのは13都道府県のみです。47のうち13ですから、かなり少ないように感じますが、それでも自称「高効率都市型ネットワーク」と言うだけあって、世帯数で計算しますと、この6局で日本の67%の家庭をカバーできています。

逆に、33%の家庭では「テレビ東京は映らないもの」と認識されているか、そもそもテレビ東京という存在を意識していないということになります。

しかし、そんなテレビ東京にも全国をカバーする手段があります。それはBSデジタル放送です。テレビ東京系列には地上波の6局とは別に「BSジャパン」という衛星テレビ局があり、BSデジタルにて日本全国をカバーしているのです。

当初、BSジャパンが開局した際には、BSジャパンをテレビ東京の本当の系列局として位置づけ、テレビ東京の番組をそのまま流す計画が立てられました。ところが大きな壁が立ちはだかるのです。
まずは権利問題。地上波で流すために作られた番組を、BSでも流すということであれば、それ相応の権利料を上乗せしなければならないというもの。つまり「BSでも流すならギャラなどもアップせよ」という要求があったのです。

そしてもうひとつは、テレビ東京がBSで自社の番組を流すことは、自分の首を絞めることになってしまうということです。

先述の通り、日本には33%世帯が住む「テレビ東京系が映らない地域」があります。世帯数比でいえば33%ですが、都道府県の数にするとそれは34県にも上ります。実はこの、34県にあるテレビ局と、テレビ東京は商売をしています。

テレビ東京が映らない地域にあるテレビ局は、他系列でありながらもテレビ東京の人気番組を一部流しています。これは、それらの地域のテレビ局がテレビ東京から番組を購入しているものであり、テレビ東京の大きな収入源のひとつとなっています。

ところがです。BSでテレビ東京の番組が流れるとなれば、それらの地域のテレビ局はテレビ東京から番組を買う必要はなくなります。テレビ東京が自社の番組をBSで流せば流すほど、テレビ東京は自分の首を絞めるという構図になってしまうのです。

このような経緯から「テレビ東京の番組を全国に向けて流すBSジャパン」という構図は崩れ。BSジャパンはテレビ東京ホールディングスとしてテレビ東京本体と経営が一体化され、BSジャパンは「テレビ東京第2チャンネル」という位置づけになり、テレビ東京とは違う番組が放送されるようになったのです。

とはいえ、今回のような選挙特番は、他の系列局が購入するわけもなく、また、ギャラ問題も容易に解決できることから「池上彰の総選挙ライブ」は午後11時までの第1部について、テレビ東京とBSジャパンの同時放送が実施され、全国どこでも見られる体制となっていたのです。

それでもなぜ「テレビ東京が見られないから池上さんの見られなかった」と言われてしまうのか。

・テレビ東京自身がBSジャパンでの同時放送をアピールしていない
・テレビ東京は見られないという固定観念
・そもそもテレビ東京の存在を知らない

この3つの問題点が挙げられます。

まず、テレビ東京系が映らない地域では、放送マニアでも無い限りテレビ東京は認知されていません。恒常的に番組が放送されていないのですから、当たり前のことです。

そして一番の問題は、テレビ東京自身がこの「池上彰の総選挙ライブ」についてもそうですが、BSジャパンでの同時放送をアピールしていないということです。なぜアピールしないのか。実は、アピールしないのではなく、アピールできないのです。

テレビ東京系列は67%の世帯をカバーしている一方で、BSジャパンは100%の世帯をカバーしています。残る33%の世帯にはBSジャパンを見て欲しい一方で、テレビ東京系列の映る67%の世帯でも、BSジャパンは映るわけで、これらの家庭では地上波でもBSでも「池上彰の総選挙ライブ」が見られることになります。しかし、それらの家庭にBSジャパンを見てもらっては困るのです。

テレビ東京ホールディングスの売上比率を見てみますと、地上波が75%、BSはたった8%です。商売で考えたら、まだまだBSなんてものは地上波の10分の1程度。あくまでも商売のメインは地上波です。

それに、視聴率が出るのはやはり地上波です。BSジャパンでも見られることをアピールすると、関東の視聴者までもがBSジャパンを見てしまい、テレビ東京の視聴率が下がってしまうことが懸念されます。さらに、系列局では「地元情報への差し替え」が存在します。テレビ北海道やテレビ大阪、テレビせとうちやTVQ九州放送ではそれぞれ「札幌からお伝えします」「福岡からお伝えします」といって池上さんの特番を切って、地元情報を伝える時間が存在します。すると、地元よりも池上さんが見たいという層が、BSにチャンネルを切り替えてしまいますから、これも、地上波の首を絞めることになってしまいます。

※今回テレビ愛知はBSジャパンと同じように全編放送しました

つまり、テレビ東京にはジレンマがあるのです。BSジャパンでも放送していることをアピールして、普段はテレビ東京系が映らない33%の世帯にはBSジャパンを見てもらいたい一方で、テレビ東京が地上波で映る67%の世帯には、BSジャパンではなく地上波で見てもらいたいのです。

だから「池上彰の総選挙ライブはBSジャパンでもやってますよ」という一言は、テレビ東京の口から発せられることは無いのです。

しかも、BSジャパンでは池上彰さんの特番は午後11時で終了して、そのあとは、日経主導によるWBSキャスターの小谷真生子さんメインによる特番に差し替えられました。前回は地上波もこのスタイルでしたが、今回はBSジャパン(とCSなど)のみの小谷さん特番で、局の看板キャスター救済番組にも見えなくもありませんでした。
でもまあそもそも、普段からテレビ東京系が映らない地域の人には、テレビ東京がアピールする手段もないわけですけれども。

池上彰氏起用のテレ東が民放トップ7・9%…選挙特番(スポーツ報知)
テレ東健闘!池上氏効果で選挙視聴率大幅アップ 堂々批判で維新・石原代表激怒も(サンケイビズ)
デーブ氏 テレ東選挙特番は「100点満点」(東京スポーツ)

東京12チャンネル運動部の情熱

BSジャパンができたときには、東京12チャンネルがいよいよ本当の全国区に!…と思ったものだけどなあ。

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コメント

  1. 木8鑑定団 より:

    いつも楽しく拝見しております。
    私は地上波に配慮してBSの身動きが取れなくなるのが
    お互いにとってマイナスになるようにしか感じられませんな。
    地上波は視聴率が上昇に反比例するかのように広告収入は悪化傾向です。
    BSJは急成長中ですが他のBS民放に比べると勢いが弱く感じます。
    下手したら数年先にはBS11に抜かれてもおかしくありません。

  2. >木8鑑定団さま コメントありがとうございます
    いつもご覧いただき、ありがとうございます。
    理想としてはそうでしょうね。
    実際、テレビ東京にとってBSの活用は、
    大きな大きな課題だと思います。
    ただ、本文中に書きましたとおり、
    BSの売上はTXHDの全体のたかが8%です。
    8%の事業のために75%の事業を少しでも犠牲にはできないということは
    経営判断として理解できますしあり得ないことだと思います。
    売上ベースで見ると、BS11はまだ大きな独立U局程度です。
    BS11がBSJを抜く可能性はあるかもしれませんが、
    それでも、まだまだ地上波に比べたら、
    本腰を入れられる水準ではないということには変わり無いですね。

  3. 木8鑑定団 より:

    トッピー様
    御回答有難うございます。
    私はBSでサイマルで流しても
    地上波に与える影響は極めて小さいと思うのです。
    日本シリーズがBSで放送しないときは
    地上波の視聴率が高めになるという傾向はあるみたいですが、
    BSのサイマルをやめた紅白歌合戦が
    むしろ下がってしまったことなんてありました。
    テレビ東京でもBSJサイマルを打ち切ったり時差ネットに切り替えて
    番組の視聴率が上がったという話を聞きません。
    番組販売に関しても好調だった「やりすぎコージー」と言った番組を
    その他の理由で打ち切ったことを認めています。
    テレビ東京の「経営判断」は一見順当に思えますが
    私としては事実誤認が多いと言わざるを得ません。

  4. >木8鑑定団さま コメントありがとうございます
    テレビ東京だけに存在する問題として、
    本文中にも書きましたが、視聴率どうこうとは別に、
    地方の他系列局への番組販売というものがあります。
    一時期、BSジャパンでテレビ東京の番組を時差とはいえ
    大量に放送してしまったことで、
    地方の他系列局への番組販売が減ってしまったということがあります。
    視聴率をあげることはもちろん大切ですが、
    売上を伸ばすことが、経営判断としては最も重要です。
    そのために、テレビ東京HDとしてBS事業を一体化して、
    BSジャパンを「テレビ東京第2チャンネル」にして、
    テレビ東京とは別の形で、BS独自で売上を上げよう
    というのが今の方針でしょうし、今後もそのスタイルは変わらないでしょう。
    私はただのテレ東ファンで、株主の端くれです。
    テレビ東京の分析をしているだけで、
    それ以上のことをここに書くつもりはありません。

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