地上波でしか中継しないのにはワケがある

140718

オールスターゲームの中継風景※ナゴヤドーム開催時

なんのための野球中継なのか

普段は別々のチームのファンでも、一緒に楽しめるのが、オールセントラルとオールパシフィックの対決で2試合行われる「オールスターゲーム」です。

通常、野球の試合というのは、ラジオはもちろん、地上波のテレビ、衛星放送(BS)、通信衛星(CS)など、あらゆるメディアで中継されます。このうち、地上波のテレビは放送時間が限られており、大抵は夜8時54分で放送が終了してしまいます。

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そのためコアな野球ファンは、試合を最後まで見るために、BSであったり、有料のCSで見たりするわけです。地上波で中継が終わってしまう…、地上波で中継されない…、そういった試合を最後まで見たいがために、有料のBS・CSチャンネルに加入しています。

BSやCSで生中継されないのはなぜ?

さて、18日(金)に西武ドームで行われた「マツダオールスターゲーム2014第1戦」この試合の生中継は、地上波のテレビ朝日系列のみでの放送でした。

え?と思われるでしょう。

普段の試合は地上波、BS、CSで放送されるのに、オールスターゲームは地上波だけ?って。

オールスターゲームだけでなく、日本シリーズもそうなのですが、特にある系列での放送になると「地上波独占中継」と銘打って、BSやCSで放送されないことがあるのです。

なぜか。

地元に球団のある地方都市に住んでいますと、地上波のプロ野球中継は連日行われ、全国でプロ野球人気が高かった頃と状況は変わっていないのですが、今や関東のキー局では、地上波のプロ野球中継はかなり減少してしまっています。

地元球団のある地方では視聴率がとれても、関東のキー局では視聴率がとれない…というのがプロ野球の現状です。

各地方のローカルで中継する分には、ローカルの視聴率さえよければいのですが、全国ネットで放送するとなると、評価されるのは関東の視聴率のみです。これは野球中継に限ったことではなく、我が国の全国ネットのテレビ番組は、関東の視聴率でしか評価されないのです。

となると、プロ野球中継で視聴率が稼げなくなっている関東では、地上波でプロ野球を中継する際、極力その視聴率をあげるために、BSやCSで並行放送「させない」という手段を行使する放送局がでてくるわけです。

BSやCSに放送させないようにするにはどうしたらいいか?

そのために、自社系列のBSテレビ局やCSテレビ局で放送権利をとっておいて、わざと放送しないのです。

今回のオールスターゲームでも、テレビ朝日系列のBS朝日とCSのテレ朝チャンネル2で試合前の「ホームランダービー」を、そして録画放送を深夜24時からCSのテレ朝チャンネル2でやっていた点を見ても、テレビ朝日系列として、地上波、BS、CSの全ての権利をとったうえで、あえてBSとCSで生放送をしていないということがわかります。

こうすることで「地上波独占放送!」が実現するのです。

独占しておいて途中打ち切り

ところが今回、地上波独占放送!をしておいて、夜8時54分で中継打ち切り。

それでもまだ、良心があるテレビ局なら、その夜8時54分から、系列のBSやCSで「リレー中継」なんてことをやるわけですが、当然、それをやればそれまで野球中継を見ていた人の多くは、そちらにチャンネルを変えてしまうわけで、夜9時からの地上波の番組の視聴率に影響してしまいます。

ですから、BSにもCSにも、並行放送もさせない、リレー中継もさせない、というのが、視聴率アップのためには有効な手段となるわけです…が、これ、野球の視聴者のことは何も考えていませんよね。

そもそも、テレビ朝日系列は放送免許上、山梨県、富山県、福井県、鳥取県、島根県、高知県、徳島県、佐賀県、宮崎県は放送エリア外となっています。これらの県では、他県からの漏れ電波で見られる家を除いて、オールスターゲームの生中継自体を見ることができないわけです。

それではここで、11年前の当サイトの記事、現在は掲載していないものを掘り起こして再掲します。

2003年10月30日付「地方を無視した日本シリーズ」

先日行われた、日本シリーズ第7戦。ダイエーが見事日本一となりました。この試合、29年ぶりにテレビ東京で放送されたわけですが、それによって苦情が出たのです。実況が絶叫しすぎ…といった類の苦情ではありません。中継自体は高評価でした。ところがです。テレビ東京系列と独立UHF局で放送されたこの試合は、日本の7割の世帯しかカバーしておらず、残りの3割のうち、同時放送したNHK-BSを見られなかった人たちから苦情が出たのです。

確かに、衛星放送(BS)で並行放送しているから放送されない地域があっても良い、と言うものではありません。どこの家でも衛星放送の受信環境があるわけではないのですから。だからと言ってこの問題は、果たしてテレビ東京だけの問題なのでしょうか。もちろん「それだけのネットワークしか持っていないのに放映権を取るな」という意見もあるかと思います。次回、またテレビ東京系列での放送があり得るならば、あらかじめ他系列の地方局や、NHKなどと連携して、空白地区を少しでも埋める努力が必要になるでしょう。

では、テレビ東京以外の4大系列には、空白地区が無いのでしょうか。実は、民放で100%カバーをしている系列など存在しないのです。今回第1戦、4戦を中継したTBS系列は秋田・福井。第2戦、5戦を中継した日本テレビ系列は(大分・宮崎)沖縄。第3戦、6戦を中継したテレビ朝日系列は山梨・富山・鳥取・島根・高知・(宮崎)が空白地域となっています。(佐賀・徳島は隣県の電波が入るため除外。大分・宮崎は複数のキー局をネットするクロスネットのため括弧書きとしました。)

では、今回の日本シリーズ。衛星放送ではどのように放送されたのでしょうか。今回フジ系列は放送がありませんでした。実は、テレビ朝日系列を除く中継すべて、日本テレビ系・TBSテレビ系・テレビ東京系が放送した試合について、各局がBSの権利を取得せずNHKに譲ったため、NHK-BSにて並行放送されました。衛星の電波は全国どこでも届くため、BSチューナーを導入すれば100%の家庭で見ることができたわけです。しかし、BSで並行放送するということは、視聴率をBSに取られてしまいます。第7戦、テレビ東京の平均視聴率は20.0%でしたが、同時に中継したNHK-BS1の視聴率は3.4%(20:41~21:40)でした。単純に考えれば、BSに並行放送をさせなければ、その時間テレビ東京の視聴率は23.4%となり得るわけです。

しかし、やはり空白地域を生んではならないという考えからか、これら3系列はアナログの衛星放送との並行放送を選んだわけです。
※当時はまだBSもアナログが主流で、アナログBSで放送していたのはNHKとWOWOWだけでした。

ところが、テレビ朝日系列だけはそうではなかったのです。テレビ朝日が中継した第3戦、6戦については、テレビ朝日系のBSデジタル放送局「BS朝日」が衛星の放映権を獲得しました。BSデジタル放送は、確かにどこでもチューナーがあれば受信できますが、これまでのアナログBSに比べれば普及していません。なるほど、BSでの放送をBS朝日にすることで、BSデジタルの普及に貢献するとともに系列一丸となって日本シリーズを放送することにしたんだな。と思ったのですが、実際は違ったのです。

なんと、BS朝日は権利を持っていながら、第6戦を生中継をしなかったのです。

「なんということでしょう」

これでは、テレビ朝日系列の無い地域では、絶対に生中継を見ることができません。

これは、テレビ朝日の策略だったのでしょうね。BSでの権利を系列会社が買い、そしてワザと生中継しないことで、BSに流れてしまう視聴率を、テレビ朝日系列で独占する…。

今回、テレビ東京が中継した、第7戦が3割の地域で地上波では見られなかったと言うことを、テレビ朝日は夕方のニュースで大きく取り上げたり、ホームページ上のニュースで配信したりしていますが、あの試合はBSがあれば100%見られたのです。でも、テレビ朝日の試合は絶対にどう頑張っても、見られない地域があったのです。もちろん、テレビ東京系が見られない地域が多かったこと自体には問題があります。

テレビ朝日が中継した試合は、山梨・富山・鳥取・島根・高知・宮崎では他県の電波(ケーブルテレビ含め)が入らない限り絶対に見ることができなかったのです。テレビ東京の系列の事情とは違い、テレビ朝日は、関東の視聴率のためにこれらの地域を蹴ったのです。BS朝日で生中継できる権利、設備を持ちながら。

本当に、地方を無視した放送局はどこなのでしょう。

この記事を書いた人

TOPPY/川合登志和

記事や脚本を書いたり、名古屋のラジオやテレビの構成作家をしたり出演したり、地域のFMラジオで喋ったりディレクターしたりミキサーしたり、講師したり、サイト作ったりしてます。

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コメント

  1. 通りがかり より:

    今回の件でもっと腑に落ちないことがあります。
    このテレ朝系でも、オールスターや日本シリーズの場合は、これまで平日放送であっても、21時台の番組は潰して継続、それでも終わらない場合はNステ・報ステの時間に割り込んで継続というのが恒例となっていました。
    それが、今回行われなかった点です。ほとんどの視聴者が今回もその体制を取るもんだと思っていたはずです。
    こんな事を起こして、ネット上では大騒ぎでしたが、問題は金曜日にやらかしたこと。ここから3連休で局の苦情処理係もお休みということで、火曜日にはある程度ほとぼりが冷めてしまっているので局に殺到する電話の件数が思っていたよりも少なくなるでしょう。翌平日ならとてつもない苦情が殺到するところですが・・・この問題が局内で大きく取り上げられることもなく、来年以降もこの事態が継続されるでしょう。あえて狙ったとも考えられます。

  2. ねこでん(@nekoden) より:

    最近のプロ野球中継は8時54分までというのが多いので合わせたのかも知れないですが、試合終了まで中継するべき試合を途中で打ち切るのは納得いきませんね。

  3. トッピー@管理人 より:

    >通りがかりさま コメントありがとうございます

    実際のところはわかりませんが、21時台の番組がテレビ朝日ではなく、
    朝日放送の番組だったことが事情としてあるのかもしれませんね。
    さらに、そのあとに他のスポーツ中継もありましたからね。

    朝日放送の番組を休ませるということは、
    テレ朝が朝日放送に頭を下げる必要がありますし、
    朝日放送のセールスの番組は収益が良いという話もありますので、
    そのあたりの兼ね合いもあったのかもしれません。

    これに関してはあくまでも妄想ですが。

  4. トッピー@管理人 より:

    >ねこでん(@nekoden)さま コメントありがとうございます

    基本的に、こういう編成が発生する事情は全て、
    セールスの問題だと思いますので、
    放送延長分についてスポンサーがつかなかった?つけなかった?
    21時台の朝日放送のセールス枠に踏み込めなかった?
    いろんな推察ができますが、実際のところはわかりませんね。

  5. 通りがかり より:

    1年ぶりのコメントです
    2015年はBS朝日でのリレー中継が実施されるようです。
    昨年のあの件でついに観念したのかもしれません。

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