NHK名古屋放送局(名古屋・東区)※写真提供:12歳の自分
史上初のことは名古屋で起きた
NHKいえば、受信料によって運営される公共放送。対する民間放送は、企業からお金を受け取ってコマーシャルを流すことで運営している商業放送。
NHKは私たち視聴者がスポンサーです。ですから、特定の企業などに偏った内容になることなく、常に中立な立場で番組を製作できる、ということになっています。
なので、NHKがコマーシャルを流すことはありません。でも、NHKがよそでコマーシャルを流したことが…あるのです。
しかも、名古屋で。
どういうことでしょう。事例を紐解いてみましょう。
NHKが衛星放送をスタートしたのが、1984(S59)年5月12日のことでした。当時はまだ試験放送で、総合テレビと教育テレビ(現・Eテレ)の番組を混合編成し、難視聴対策としての役割を果たしてきました。
それが1987(S62)年になると独自編成に。それまで日本のテレビ放送では実現されていなかった、24時間放送を行い、太陽の光が衛星に届かない「食」の時を除いて、独自編成の24時間放送となったのですが、それでもまだ、この段階では試験放送でした。
名古屋テレビ塔にあったNHK衛星放送のPRブース
1989(H元)年6月1日、NHKの衛星放送が本放送をスタートします。
ここで、受信料という話になるわけです。NHKは受信料によって運営されているわけですから、本放送をスタートしたとなれば、有料化しなければなりません。
8月1日より、NHKの衛星放送は有料となります。
当時、NHKの衛星放送を見るためにアンテナとチューナーを買うのには、10万円ほどの費用が必要でした。とはいえ、それだけの投資をして、見られるのはNHKの衛星放送だけ。
いくら当時のテレビ放送がまだ地上波だけとはいえ、そこまでの投資をする人はそれほど多くはなかったのです。
しかし、NHKの衛星放送の受信料徴収について、国会で承認される際に、1987(S62)年度末に58万世帯だった受信世帯について、「2年後に230万世帯に普及すること」というノルマが課せられるわけです。
そこでNHKは、衛星放送のコマーシャルを民放で流す、という大胆な手法をとることになるのです。それが行われたのが、名古屋でした。
1989(H元)年8月29日から、「NHKの衛星放送はこんなに面白いですよ」「NHKの衛星放送は8月から有料になります」といった20秒と30秒のスポットCM計6種類を、東海ラジオで流したのです。
東海ラジオ放送(名古屋・東区)
NHKのコマーシャルが民間放送で流れた、史上初の試みでした。
ただ、当然NHKは放送局ですから、CMの製作は東海ラジオに依頼せず自前で、桜井洋子アナウンサーが担当し製作。
東海ラジオで「NHKからのお知らせです」というコマーシャル。
いかに当時のNHKが、衛星放送普及ノルマに苦悩していたかがわかるエピソードですね。
しかしなぜ、名古屋だったのでしょう。それが今でも謎です。
コメント