テレビ東京(東京・港区)
テレビ東京にとって午後6時台は「聖域」
2016年5月27日(金)、この日は歴史的な一日になりそうです。戦後71年、オバマ大統領が現役のアメリカ大統領として初めて、被爆地である広島を訪問するのですが…、なんと、テレビ東京が午後6時台に報道特番を放送するというのです。
広島は、テレビ東京系列は地上波ではカバーしていないという要素は別にしても、テレビ東京が平日の午後6時台に報道特番を編成した前例は、東日本大震災の発生した2011(H23)年3月11日の長時間特番以外に、少なくともここ25年間は記憶になく※、相当なことです。
1995(H7)年1月17日の阪神・淡路大震災の当日でさえ、テレビ東京は午後6時台にアニメ「覇王大系リューナイト」と「ゲーム王国」(テレビ愛知はミスター味っ子の再放送)を放送しているのです。
なぜなら、テレビ東京にとって、午後6時台は「聖域」だからです。どういうことなのか検証してみます。
テレ東夕方ニュースの「差別化」の歴史
テレビ東京の夕方ニュースの歴史は、他局との差別化の歴史と言っても過言ではありません。
テレビ東京が開局したのは、1964(S39)年4月12日。当時の放送局名は「科学テレビ・東京12チャンネル」でした。当初は科学技術教育テレビ局として開局しているため、夕方のニュースは午後6時からのわずか10分でした。
東京12チャンネルが、科学技術教育テレビから普通のテレビ局である総合放送局に移行するのは、1973(S48)年11月1日を待たなくてはなりません。
すると東京12チャンネルは、午後6時に「ニュースレポート」という20分番組を放送するようになります。1974(S49)年春の編成を見てみますと、この当時、他のキー局の夕方ニュースはすべて午後6時30分からとなっていて、午後6時は…。
・日本テレビ…樫の木モック(2年前のフジテレビのアニメの再放送)
・TBSテレビ…ウルトラセブン(再)
・フジテレビ…怪傑ライオン丸(再)
・NETテレビ(現・テレビ朝日)…魔法使いサリー(再)
・NHK総合テレビ…こどもニュース◇05ぼくのおじさん(名古屋局制作の少年ドラマ)
・NHK教育テレビ…語学講座
・東京12チャンネル(現・テレビ東京)…ニュースレポート
このように、午後6時はどのテレビ局も一般ニュース番組を編成していなかったことから、その隙間を狙って、東京12チャンネルはニュース番組を放送し始めたのでした。
このあと何十年と続く、テレビ東京・夕方ニュースの差別化の歴史の始まりです。
逃げて定着したテレビ東京の夕方ニュース
1975(S50)年秋・TBSテレビが午後6時に「テレポートTBS6」をスタートすると、翌年の秋から東京12チャンネルの「ニュースレポート」は午後5時30分に逃げます。徹底して差別化を図り、裏番組にニュースの無い時間帯を追求するのです。
そのあと、1978(S53)年秋にはフジテレビが午後6時から「ニュースレポート6:00」を、1979(S54)年春にはテレビ朝日が午後6時から「6時のサテライト」をスタートするも、日本テレビでさえ午後6時のニュース番組に進出、撤退、再びアニメ枠に戻すといった状況で、6時台の1時間をニュースにするのがやっと、どの局も、午後5時台にニュース番組を編成するということはありませんでした。
そのため、東京12チャンネルのちのテレビ東京の「差別化」された午後5時30分のニュース番組は、「こちらニューススタジオ(1978秋)」「ニューストレイン出発進行(1980.1)」「ニュースTODAY(1980秋)」「TXNニュースTHIS EVENING(1989春)」と安定して続いていきます。
その間の他局の動向ですが、TBSテレビ午後6時30分からの「JNNニュースコープ」が午後7時20分まで拡大されたり、テレビ朝日が午後7時20分からの「ニュースシャトル」を放送したりと、7時台にニュース番組を拡大する局はあったものの…。
5時台はドラマ、アニメの再放送や、フジテレビの「夕やけニャンニャン」、日本テレビの「欽きらリン530!!」といったバラエティ番組のみ。午後5時台にニュースをやるのはテレビ東京のみ。
今では信じられないかもしれませんが、1996(H8)年秋まで午後5時台にニュースを放送するのはテレビ東京のみという状態が続き、この1996(H8)年の春の編成を見ると驚くべきことに、NHK総合、教育、日本テレビ、TBSテレビ、フジテレビ、テレビ朝日、すべてのキー局が再放送番組を流しているのです。
<1996(H8)年4月の午後5時30分>
・NHK総合テレビ 「外国ドラマ・アボンリーへの道(再)」
・NHK教育テレビ 「英語であそぼ(再)」
・日本テレビ 「YAWARA!(再)」
・TBSテレビ 「僕が彼女に借金をした理由(再)」
・フジテレビ 「ドラゴンボールZ(再)」
・テレビ朝日 「さすらい刑事旅情編IV(再)」
・テレビ東京 「TXNニュースTHIS EVENING」
さらに逃げて成功するテレビ東京ですが…
動いたのは日本テレビでした。1996(H8)年秋に日本テレビの「NNNニュースプラス1」が午後5時30分スタートに。続いてテレビ朝日が1997(H9)年春に「スーパーJチャンネル」を午後5時スタートに拡大。
テレビ東京も追随します。テレビ朝日に遅れること半年。1997(H9)年秋に夕方ニュースを史上初の1時間化。「TXNニュースワイド・夕方いちばん」として午後5時スタートとするのです。
すると、テレビ東京の「夕方いちばん」は高視聴率を叩き出します。二桁に迫る日もあり、テレビ東京が他局の夕方ニュースと互角に戦える人気番組に。テレビ東京はさらに1999(H11)年秋、勝負に出ます。かつてTBSテレビ「ニュースの森」でキャスターを務めていた、久和ひとみさんを迎えて「TXNニュースアイ」をスタート。午後5時にニュースを開始する局はまだ他にテレ朝だけという状況も続いたことで、ニュースアイも好調に推移するのですが…。
2001(H13)年3月1日に久和キャスターが死去。その時には、日本テレビもフジテレビもテレビ朝日も夕方ニュースを午後5時からに拡大しており、テレビ東京の「差別化」は失われてしまったのです。
テレビ東京の18時台はアニメ&子ども向け
その後、テレビ東京の夕方ニュースは縮小する一方です。さらに午後4時台に逃げればいいのでは?と思われるかもしれませんが、テレビ東京の午後4時には「レディス4(現・L4YOU!)」という1983(S58)年5月から続く長寿番組があり、ニュースをそれ以上「逃げさせる」ことはできなかったのです。
ニュースアイは2003(H15)年春に金曜を除いて25分間番組に短縮。翌年には全曜日で25分に。その後は「速ホゥ!」「NEWS FINE」「NEWSアンサー」と続きますが。番組の放送時間は25分前後。いつしかテレビ東京夕方ニュースの「差別化」は、他局の長時間化とは逆の「コンパクト」でしかなくなっていたのです。
では、テレビ東京は午後6時台に何を放送しているのかといいますと、アニメと子ども向け番組です。特に1990年代は高視聴率番組がずらり。ポケットモンスターは火曜18時30分で18.6%、桃太郎伝説は月曜18時30分で16.6%、バックスバニーは水曜18時30分で16.4%、赤ずきんチャチャは金曜18時で15.8%、剣勇伝説ヤイバは金曜18時30分で15.6%と、高視聴率番組を連発します。
午後6時台にニュースをやらない・それがテレビ東京
午後5時台はニュースで差別化。逆に午後6時台は他のチャンネルがすべてニュース番組だったことから、逆に「ニュースをやらないことで差別化」して、視聴率を稼ぎ出していたのです。
この「午後6時台にニュースをやらないことでの差別化」は、テレビ東京の大きな生命線となりました。
そのため、どんな大きなニュースがあっても、午後6時台を報道特別番組とすることはしなかったのです。なぜなら、どうせ他のチャンネルもニュースをやっているからです。
だから、阪神・淡路大震災の日でも午後6時台は通常番組を。組閣や事件、災害があってニュース枠を拡大したとしても、必ず午後6時には終わらせて、通常番組にするというのが、テレビ東京の長年のしきたりでした。
私は25年以上、テレビ東京の夕方ニュースに注目し続けてきました。土日は何度か例がありますが、平日の午後6時台にテレビ東京が報道特番を放送したのは、東日本大震災の日、その日だけしか記憶にない※のです。
それが今回。妖怪ウォッチの放送を休止してまでも、「報道特別番組・米大統領被爆地広島を訪問」(5/27 17:55~18:53)を、午後6時台に他局と横並びで放送するというのですから、これは、とんでもないことなのです。
※あくまでも個人の記憶です。まったく無かったと断言・証明するものではありません。
コメント