今から20年前、鳴り物入りでスタートした「AMステレオ放送」。
当時、既にラジオはリスナー減少傾向にあり、音質の良いステレオ放送であり、その後、文字多重放送を始めたFMラジオに比べ、成熟メディア、技術革新の起きないメディアと決め付けられていたAMラジオにとって、最後の起爆剤と言われました。
当時の…
ワールドビジネスサテライトでは、ヒット商品として「AMステレオラジオ」を紹介し、特にスポーツ中継の多いAMラジオにとって、ステレオ放送の臨場感には期待が高まりました。しかし、NHKはこのAMステレオ放送の導入を見送ります。
AMとFMの両方のラジオを持っていたNHKにとって、新たな設備投資をして、AMをステレオ化する必要性が無かったのです。ステレオで流したい番組はFMで流せば済むのですから。また、費用対効果の見込めない地方局は導入を見送り、結局、AMステレオを導入したのは、都市部を中心とした16の民放ラジオ局に留まりました。
1992(H4)年
・3月15日開始
TBSラジオ・文化放送・ニッポン放送(以上東京)
毎日放送(MBS)・朝日放送(ABC)(以上大阪)
・4月1日開始
RKB毎日放送・九州朝日放送(KBC)(以上福岡)
・4月4日開始
中部日本放送(CBC)・東海ラジオ放送(以上名古屋)
・8月1日開始
北海道放送(HBC)
・10月1日開始
中国放送(RCC)(広島)
・10月5日開始
山陽放送(RSK)(岡山)
1993(H5)年
・3月29日開始
ラジオ大阪(OBC)
・10月1日開始
熊本放送(RKK)
1996(H8)年
・7月14日開始
和歌山放送(WBS)(和歌山)
・10月7日開始
STVラジオ(北海道)
当時、TOKYO FMの番組をネットしていた山陽放送(RSK)や、高校野球県大会の人気が非常に高い和歌山放送(WBS)を除いては、全て大都市や基幹となる都市にある比較的余裕があるであろうラジオ局のみでした。さらに、AMステレオ放送には問題がありました。
それは、ステレオになったからと言って、AMラジオの本質が変わるわけではなく、若干、高音の伸びは良くなるものの、雑音が入らなくなるわけでもなく、混信に強くなるわけでもありません。
また、放送局サイドからすると、それまではある一定以上の電波の強さで届く地域が「サービスエリア」=広告を出す際の媒体価値の目安であったのに対し、ステレオ放送を開始すると、ステレオ放送で届く地域が「サービスエリア」となり、スポンサーに提示できるサービスエリアが、モノラル時代よりも狭くなってしまうという面もありました。
NHKが導入を見送り、民放も、全国47局のうちたった16局しか実施しなかったことで、当初、都市部ではヒット商品となったものの、普及はいわゆるマニア層に留まり、AMステレオ機能を搭載したカーステレオやラジオ、コンポなどを製造していたメーカーも、次第に手を引き始めます。
さらに、AMステレオ受信機用のICチップの製造を、大元のモトローラ社がやめてしまい、そのICチップの在庫がある限りしか、受信機の製造ができないことになってしまいました。そこへ、AMステレオ放送を放送局が捨てる、大きな引き金となる出来事が起きます。
それは、「radiko(ラジコ)」の登場です。2010(H22)年3月15日に実用化試験の始まったradikoは、インターネットでラジオの放送をそのまま聞けるサービスで、この日から関東と関西の一部でサービスをスタート、その後、12月1日に関東と関西全域に対象地域を拡大、翌2011(H23)年3月25日には東海3県で、さらにその後、北海道、福岡と順次拡大し、参加していない放送局はあるものの、2012(H24)年4月2日には全都道府県でのサービスをスタートしました。
radikoは、もちろんステレオ配信です。しかも、インターネットで音声を配信するものですから、雑音も混信も入りません。ICチップの製造が終わり、受信機の製造も困難になってきたAMステレオ放送、となれば、送信側の部品の調達も、困難になっていることが容易に想像できます。
radikoの登場をきかっけに、AMステレオ放送を終了するラジオ局が出てきました。…と言いたいところなのですが、実は、その前に音を上げていた局がありました。最初にAMステレオ放送をやめたのは、九州朝日放送(KBC)でした。
2007(H19)年
・3月31日終了
九州朝日放送(KBC)(福岡)
2008(H20)年
・9月28日終了
熊本放送(RKK)
2010(H22)年
・2月28日終了
毎日放送(MBS/大阪)・北海道放送(HBC)
・3月14日終了
朝日放送(ABC/大阪)
ここで3月15日、radikoが開始されます。ABCラジオなんかは特に、radikoの開始に合わせてAMステレオを辞めたという思惑がよくわかります。
・3月28日終了
STVラジオ(北海道)
・5月30日終了
RKB毎日放送(福岡)
2011(H23)年
・1月30日終了
TBSラジオ(東京)
・3月13日終了
中国放送(RCC)(広島)
・3月27日終了
山陽放送(RSK)(岡山)
2012年(H24)年
・2月5日終了
文化放送(東京)
次々と、AMステレオ放送を終了させるラジオ局が現れ、現時点で、AMステレオ放送を続けているのはたった5局となりました。
ニッポン放送(東京)
中部日本放送(CBC/名古屋)
東海ラジオ放送(SF/名古屋)
ラジオ大阪(OBC)
和歌山放送(WBS)
東京、大阪、和歌山で1局ずつとなり、複数のラジオ局が実施しているのは名古屋だけ、名古屋はまだ、どこもAMステレオ放送を辞めていない、そんな状況だったのですが、とうとう、その波は名古屋にもやってきました。
東海ラジオ放送は、5月13日(日)深夜でAMステレオ放送を終了し、14日(月)の放送開始からモノラル放送とする、と発表したのです。
記事タイトルが「ステレオ放送についてのお知らせ」なのに、記事のアップされたフォルダ名が「monoral」なのが泣けます。我が家には、AMステレオのポケットラジオが2台、AMステレオ対応のチューナーが1台あります。高校生の頃、アルバイト代を貯めて買ったものです。
いつか、強電界の地域に引っ越したら…という思いで買いましたが、結局のところ、ずっとAMラジオの電波環境の悪いところに住み続けていて、たまに、外出先で電波の良いところで聞いた何回かを除いて、これらの受信機で快適にステレオ放送が聞けたことはほとんどありませんでした。
そのような事情から、今では、ラジオ受信機で聞くよりも、radikoで聞くことの方が多い…いや、ほとんどというのが実情です。東海ラジオのAMステレオ放送は、丸20年と40日で終了ということになります。
確か、東海ラジオって、AMステレオ放送を開始した際に、ジングルから天気予報、交通情報の音楽など、全てをステレオ化して一新しましたよね。あれから20年なんですね。今もそれをずっと使っていますよね。
残るはあと4つのラジオ局、
東京(LF)、名古屋(CBC)、大阪(OBC)、和歌山(WBS)。
この、AMステレオ廃止チキンレース、最後まで残るのは果たして…。
コメント
LF,CBCはわかるとして、OBC,WBSがステレオ放送を続けているというのは意外です。やめることすらも面倒くさいからでしょうか?
私もAMステレオ放送の恩恵に授かったことはほぼ皆無でした。ちょっとでも綺麗に受信するにはモノラル放送の方が良かったですからね。
私も持っていました、AMステレオラジオ(といっても、パナソニック社製のヘッドホンステレオですがね)。でも、ほとんど聞くことはありませんでしたが。
遂にSFもステレオ終了なんですね。
「20年もやっていた」というのは私にとってはちょっとした驚きでした。
もうそんなに経っていたとは。
SFがステレオ開始後にジングルをステレオ化したというお話が出ていましたが、CBCもAMステレオ導入とほぼ同時に開始した昼ワイド『もぎたてのカボチャたち』に「~THE AM STEREO HOSO~」なんてサブタイトルを付けたりして、あの頃は両局とも気合が入ってましたね。
私もaiwaのAMステレオ対応CDラジカセを所持しています。
名古屋在住時に買ったもので、その頃こそ重宝していましたが、郷里に戻ってしまった今ではほぼ無用の長物化しています。
>ネモッチさま コメントありがとうございます
今回の東海ラジオもそうみたいなのですが、
AMステレオをやめるのは、
機器不調などのトラブルがきっかけになって、
それが引き金を引く形になることが多いみたいですね。
なので、きっと、
OBCとWBSはまだ、AMステレオに関して、
何も不調が無いということかもしれません。
>HALLEさま コメントありがとうございます
自分も結局、自宅ではAMステレオを楽しむことは、
ほとんどありませんでしたね。
ただ、一時期、対応カーステレオを使っていたことがあったので、
電波の強い地域に出かけた際の車の中でだけは、
AMステレオの臨場感をしっかりと味わうことができました。
>いちみ。さま コメントありがとうございます
CBCは特に、平成元年に開催された、
世界デザイン博覧会で運営した「FM-DEPO」の設備が、
タイミングよくちょうどAMステレオに流用されたので、
あの頃はジングルも番組構成もFMチックでしたね。